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東京高等裁判所 平成2年(ラ)395号 決定 1990年7月16日

抗告人 谷沢嘉男

右代理人弁護士 増田次則

主文

本件執行抗告を却下する。

執行抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その理由として別紙「抗告の理由」記載のとおり主張する。抗告人の主張は、要するに、原決定添付物件目録(1)ないし(4)の山林(以下「本件山林」という。)はいずれも公道に接しているにもかかわらず、評価人橋本達雄作成に係る評価書の「物件の状況」欄には、本件山林のうち(1)及び(2)の山林は、接面街路のない無道路地で、宅地造成が困難である、また、本件山林のうち(3)の山林の南側では地番一三一番を介して幅員約二・五メートルの道路に通じているが、直接の接面街路のない無道路地で、宅地造成は困難である旨の誤った記載がされていたことから、抗告人は、右記載を真実と信じ、本件山林の価額を低く評価して入札したため、抗告人の入札価額の倍額以上で最高価置受けの申出をした平和堂不動産株式会社が買受人となったものであり、本件売却は正確な評価書により正当な価額の決定ができる状態の下になされたものではないから、原決定は取り消されるべきである、というにある。

二  当裁判所の判断

そこで判断するに、民事執行法一八八条が準用する同法七四条一項は、「売却の許可又は不許可の決定に対しては、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り、執行抗告をすることができる。」旨規定している。ここにいう自己の権利が害される者とは、原決定がそのまま確定すれば、その権利が当然に侵害される関係にある者をいうのであって、原決定により単に事実上不利益を受けるにすぎない者は、これに当たらないと解すべきである。

これを本件についてみるに、一件記録によると、横浜地方裁判所横須賀支部は、本件競売事件において、本件山林を期間入札に付したところ、平和堂不動産株式会社が最高価買受申出人、抗告人が次順位買受申出人になったこと、そこで、同裁判所は、同年六月一日、平和堂不動産株式会社に対し、本件山林の売却を許可したことが認められる。

最高価買受申出人とならなかった買受申出人は、最高価買受申出人に対する売却許可が取り消されたとしても、自己の買受申出について売却の許可が得られるわけではなく、新たに売却が実施された場合に、再び買受申出をすれば、買受人になる可能性が事実上存在するにすぎないのであるから、これをもって自己の権利が害される者に当たるということはできない。

そうすると、抗告人は、民事執行法七四条一項所定の執行抗告をすることができる者に当たらないから、本件執行抗告は不適法というべきである。

三  以上のとおりであって、原決定は相当であり、本件執行抗告は不適法であるから、これを却下することとし、抗告費用について民事執行法二〇条、民事訴訟法四一四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 伊東すみ子 大藤敏)

<以下省略>

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